1. 噂のお店、アイアムに行ってきた
香水の取材を重ねるうちに、私はいつの間にか「少しわかった気」になっていた。
ディップティック、イソップ、ル・ラボ、カルタ。それなりの数のフレグランスブランドを渡り歩き、「プルースト効果」だの「スキンケミストリー」だの、それらしい言葉も覚えた。チームメンバーとの雑談で香水の話になると、少しだけ得意げに語れるくらいにはなっていた。
正直に言う。ちょっとドヤっていた。
そのツケが、ある日の会議中に回ってきた。
マーケティングのトレンドを共有する場で、若いチームメンバーが「最近アイアムが面白いですよね」と口にした。その瞬間、私は「あ、それ知ってる」と言えなかった。名前は聞いたことがある。しかし何も出てこない。ロゴも、香りも、どんなブランドかも、何ひとつ。
「クロモリさん、知らないんですか? ちょっと時代遅れですよ(笑)」
笑いながら言ってくれたのが、せめてもの救いだ。しかし「香りに詳しくなりつつあるマーケター」として少しだけ自負があった私には、じわじわと効く一言だった。
その日の夜、こっそり「アイアム」と検索した。出てきた数字を見て、さらに焦った。2021年9月のオープンからわずか2年で売り場面積が3倍以上。現在全国12店舗。各店舗で前年比150〜200%以上の成長。楽天市場フレグランス部門1位、ZOZOCOSMEアワード大賞……。
知らなかったのは、私だけだったのかもしれない。
「これは実際に行くしかない」。ドヤ顔を取り戻すためではなく(いや、多少はある)、このブランドの正体を自分の目と鼻で確かめたかった。チームメンバーには内緒で、私はひとりでアイアムに向かった。
お店に向かってる最中に立ち寄ったお店で、事前調査をしていてびっくりした。
香水の取材を重ねてきた私でも、「アイアム」だけは謎が多かった
正直に言う。アイアムについて、ネット情報くらいしか知らなかった。
これまで取材してきたブランドは、どれも「知らないうちに知っていた」ものが多かった。
ディップティックなら「フランスのあの楕円のロゴのブランドか」、イソップなら「薬瓶みたいなボトルのやつか」というように、何となくイメージが先行していた。しかしアイアムには、それがない。ロゴすら、頭に浮かんでこない。
だからこそ、「2年で3倍」という数字が気になっていた。私が知らない間に、そんなに大きくなっていたブランドがある。それはマーケターとして、ちょっと悔しいような、純粋に興味深いような、妙な感覚だった。
「良い匂いの方へ歩いていったら、そこがお店だった」

引用:【Aíam】2026年3月21日「アミュプラザ博多」増床リニューアルオープン
お店の前に来て、最初に思ったことがある。
「ドア、ない。」
これまで取材してきたどのブランドにも、「入口」はあった。ル・ラボはデザインが洗練されすぎて入口が見つけにくかったし、イソップはガラス張りのおしゃれな扉があった。ディップティックには、重厚感のある店構えがあった。
どのお店も、「ここから入りなさい」というサインを、多かれ少なかれ持っていた。
アイアムには、それがない。
商業施設の通路に、オープンな空間がそのまま広がっている。壁があり、棚があり、香水が並んでいる。しかし仕切りはない。扉もない。「店の外」と「店の中」の境界線が、どこにあるのかがわからない。
途方に暮れて周囲を見回しながら、ふと気づいた。
歩いている方向に、いい匂いがする。
そっちに歩いていったら、気づいた時にはお店の中にいた。
入口を探していたのではなく、香りに引き寄せられていたのだと後から気づいた。ドアを開けた記憶がないのに、気づけばお店の空気の中にいる。この体験、なかなかない。「香りがお客さんを迎えに行く」という設計を、身をもって体験した瞬間だった。
後でスタッフさんに聞いたら、「そうやって気づいたらいらっしゃる方、多いですよ」と笑っていた。
テラコッタとブルータイル。「オレンジとブルーの空間」に足を踏み入れた瞬間

香りに誘われて踏み込んだ空間は、予想していたものと全然違った。
まず、色が美しかった。
左側の壁は、テラコッタのようなオレンジ色。焼いた土のような温かみのある色で、棚に並ぶ香水ボトルを柔らかく照らしている。そして右側に目を移すと、淡いブルーのタイルが貼られた壁。温かいオレンジと、涼しいブルーが、同じ空間の中で不思議な調和をしている。
床はグレーがかったタイルで、ミラー仕上げのガラスケースの什器が中央に並んでいる。鏡面のケースに棚の商品が映り込んで、奥行きが実際以上に感じられる。天井は高く、ダウンライトが柔らかく灯っていて、閉塞感が一切ない。
「ここは何のお店だろう」と思わせるくらい、香水店らしくない。もっと言えば、「空間それ自体が一つの体験として設計されている」という印象を受けた。商品を陳列するための棚があるのではなく、この空間に来るために香水がある、みたいな感覚だ。
ようやく視線の先に「Aiam」のロゴを見つけた時、「あ、ここがアイアムか」と合点がいった。先にロゴを見て「ここだ」と入ったのではなく、空間と香りに引き寄せられた後で、ロゴに気づいた。これも、このお店の設計の一部なのかもしれない、と思った。
2. 「選ばせない」のに、「選べた気がする」不思議な接客体験

空間の美しさに少し呆然としていたら、スタッフさんが声をかけてくれた。「何かお探しですか?」でも「どんな香りがお好きですか?」でもない、もっと柔らかい声のかけ方だった。
その一言が、私をお店の中に「着地」させてくれた気がした。
香水の棚を前にすると、いつも少し緊張する。どれを手に取っていいかわからない、選び方がわからない、そもそも自分に似合う香りがあるのかもわからない。そのもやもやが、この日のアイアムではなぜか薄れていた。
「何が好きですか?」ではなく、「今日、どんな気分ですか?」と聞かれた
スタッフさんに「よかったら試してみますか」と促されて、カウンターの前に立った。
試香紙が何本か並んでいて、それぞれ異なる香りが吹き付けられている。「どれから嗅いでみますか?」と聞かれた時、私はいつもの癖で「何を選べばいいかわからなくて……」と正直に答えた。すると返ってきた言葉が、少し意外だった。
「今日、どんな気分で来られましたか?」
え、と思った。「どんな香りが好きですか?」とか「甘い系と爽やか系、どちらが好みですか?」ではなく、「今日の気分」を聞かれた。
「仕事の合間にふらっと寄ったので、なんかリラックスしたい感じですかね」と答えると、スタッフさんは「じゃあこちらから試してみてください」と、いくつかの試香紙をさりげなく手渡してくれた。
後で気づいたのだが、この質問の設計がうまい。「好きな香り」を聞くと、お客さんは「好きな香りがわからない」という壁にぶつかる。しかし「今日の気分」を聞くと、誰でも答えられる。「疲れた」「ウキウキしている」「なんとなくぼんやりしている」。その気分の答えをヒントに、スタッフさんが香りを絞り込んでくれる。
お客さんは「選ばされた」のではなく、「自分の気分から選んだ」という感覚を持てる。この違いは、後から思い返すほど大きかった。
圧倒的人気の「チャプター65」——楽天1位、ZOZOで大賞、その香りの正体

試香紙を何本か渡されて、順番に嗅いでいった。
どれもそれぞれ個性があって、嗅ぎ比べているだけで飽きない。そんな中で、スタッフさんが「これが一番人気です」と勧めてくれた香りがあった。「チャプター65」だ。
数字だけ見ると、その人気ぶりは本物だとわかる。楽天市場では香水・フレグランス部門のデイリーランキング1位、ウィークリーランキング1位。ZOZOTOWNではZOZOCOSME AWARDS 2023のフレグランス部門大賞を受賞し、2024年にはボディ・ヘアケア部門でも受賞。さらにWWD BEAUTYの2024年上半期ベストコスメ、フレグランス部門ECカテゴリー新製品1位まで受賞している。
「これだけ賞を獲っているなら、さぞ主張の強い香りなのだろう」と、正直少し身構えた。
しかし嗅いだ瞬間、その予想はあっさり裏切られた。
キツくない。むしろ、するっと鼻の奥に入ってくる。先ほど「shiroに似てるけど、透明感が違う」と感じた印象が、このチャプター65に凝縮されていた。主張しすぎない澄んだ香りなのに、確かに「何かある」と感じさせる奥行きがある。「これが、あの行列の理由か」と思った。
試した香りが、気づいたら手首に残っていた——「つける」という行為の自然な始まり
「よかったら手首でも試してみますか?」とスタッフさんが提案してくれた。
試香紙で嗅ぐのと、肌に乗せるのは違う。それはこれまでの取材で学んでいた。でも「手首に香水をつける」という行為を、自分から「やりたい」と思ったのは初めてだった気がした。いつも「まあ、せっかくだから」という受け身の姿勢だったのが、この時は「試してみたい」という能動的な気持ちになっていた。
チャプター65をシュッとしてもらって、少し時間をおいてから嗅いでみた。
試香紙で嗅いだ時より、さらに柔らかくなっていた。体温で香りが変化して、角が取れたような、自分の一部になったような感覚だ。「しばらく経つとさらに馴染んで変わりますよ」とスタッフさんが言っていたが、その変化が楽しくて、何度も手首をそっと嗅いだ。
アイアムにはチャプター65をはじめ、複数の香りのラインナップがある。ホームフレグランスとして空間に漂わせることもできれば、ボディケアとして肌に乗せることもできる。「香水をつける」という特別な行為としてではなく、生活のいたるところに香りが溶け込んでいく設計だ。
お店を出た後も、ふとした瞬間に手首に鼻を近づけている自分がいた。「今日から香水デビューしよう」と決意して始まったのではなく、気づいたら自分の肌に香りが残っていた。そのさりげない入り方が、アイアムというブランドそのものを象徴している気がした。
3. なぜアイアムは、2年で売り場を3倍にできたのか
お店を出て、少し歩いた。手首にはまだ香りが残っている。その香りをふと嗅ぎながら、マーケターとしての頭が動き始めた。
あの行列は何だったのか。あの若い女性たちは、何を求めてアイアムに並んでいたのか。「2年で売り場3倍」という数字の正体が、少しずつ言語化できそうな気がしてきた。
shiroに似てる。でも、何かが違う——「透明感」という言葉しか浮かばなかった

手首に残った香りをもう一度嗅いで、「これ、どこかで嗅いだことがある感じがする」と思った。
しばらく考えて、「shiro(シロ)かな」という言葉が浮かんだ。shiroは日本発のナチュラルコスメブランドで、素材の自然な香りを大切にしている。肌に優しく、主張しすぎない。「香水が苦手な人でも使いやすい」という印象を持っているブランドだ。
アイアムの香りは、その感覚に近かった。植物由来の柔らかさ、嗅ぎ疲れしないナチュラルな印象。「あ、これ系か」とすぐに体が理解した。
ただ、shiroとは何かが違う。
しばらく考えて、「透明感」という言葉が浮かんだ。shiroが「大地」や「素材そのもの」を感じさせる、少し土っぽい温かみがあるとすれば、アイアムはもう少し澄んでいる。空気が通っているような、余白のある香りだ。フレッシュ、と言ってもいいかもしれない。
「shiroが好きな人は、アイアムも絶対に好きだと思う。でも、shiroとは少し違う」。そう思いながら、この「似てるけど違う」という感覚こそが、アイアムが独自のポジションを作れている理由の一つかもしれないと気づいた。
既存の「ナチュラル系フレグランス」のファンに届きながら、でも同じではない。その絶妙なポジショニングが、「shiroは知ってるけどアイアムは知らなかった」という層を新たに取り込んでいるのではないか。
平日なのに、入場規制。若い女性たちが並んでいた理由

店内で気になっていたことがある。お客さんの層だ。
アイアムは、若い女性が多かった。それも、かなり多かった。これまで取材してきたブランドと比べると、客層の年齢がぐっと下がる印象だ。ル・ラボやディップティックは、30〜40代の落ち着いた大人の客層が中心という印象だったが、アイアムは明らかに20代が主役だった。
そして、並んでいた。
平日にもかかわらず、お店の外に列ができていた。入場規制がかかっていて、前のお客さんが出るのを待ってから入る形になっていた。これは今まで取材してきたどの香水店でも見たことがない光景だった。
「香水店に並ぶ」という体験が、私にはピンと来ていなかった。人気のカフェやラーメン店なら理解できる。でも、香水店に?
しかし考えてみれば、そこにアイアムの本質があるのかもしれない。「この空間に入りたい」「この体験をしたい」と思わせるほどの引力が、あの場所にはある。入場規制がかかるということは、それだけ「来たい」と思う人が多いということだ。香水を買いに来ているというより、「アイアムという体験」をしに来ている。
SNSでの口コミが広がりやすい理由も、ここにあるような気がした。あの空間の美しさ、入場を待つ高揚感、手首に残る香り。「体験」として語りたくなる要素が、一つのお店の中にいくつも詰まっている。
「幸せはいつも私の心が決める」——あの行列の正体は

店を出てから、アイアムのブランドコンセプトを調べてみた。
「私は、”わたし” 幸せはいつも私の心が決める」
日本発のトータルビューティーブランド、アイアム(Aíam)。そのコンセプトを読んだ瞬間、今日の体験がすべて一本の線でつながった気がした。
「今日、どんな気分ですか?」という問いかけ。ドアも仕切りもない、漂う香りに誘われるだけで入れてしまう空間。嗅ぎ疲れしない天然香料。手首に残った、自分の体温で変化していく香り。
あれは全部、「自分の感覚を信じていい」という体験の積み重ねだったのだ。
「これが正解の香りです」「今年のトレンドはこれです」ではない。「今日の自分がどう感じるか」を、ひたすら丁寧に問いかけてくれるお店。香りを選んでいるようで、実は「今日の自分」を確かめている。そういう場所だったのだと思う。
平日に入場規制がかかるほど若い女性が並んでいた理由も、ここにあるのかもしれない。日々の生活の中で、誰かの評価や世間の基準に合わせることに疲れている人は少なくない。「正解」を求めて検索しすぎて、気づいたら自分が何を好きなのかわからなくなっている、という感覚は、現代を生きる多くの人に刺さるものだと思う。
アイアムは、そこに静かに手を差し伸べているブランドなのかもしれない。「あなたの幸せは、あなたが決めていい」という言葉を、香りという形で体験させてくれる場所として。
「2年で3倍」という数字の正体は、商品力でも価格戦略でもなく、このコンセプトの純度の高さではないかと今は思っている。
「自分を大切にしたい」という感情に、これほど真正面から応えているブランドに、私はなかなか出会ったことがない。
【まとめ】アイアム(Aíam)で学んだこと
- ブランドコンセプトは「私は、”わたし” 幸せはいつも私の心が決める」。日本発のトータルビューティーブランド
- ドアも仕切りもないオープンな空間で、「香りに引き寄せられたら、そこがお店だった」という自然な来店体験を生んでいる
- 「好きな香りは?」ではなく「今日の気分は?」という問いかけが、「自分の感覚を信じる」体験の入口になっている
- shiroに近いナチュラルさを持ちながら、より「透明感」のある澄んだ香りで独自のポジションを確立している
- 天然香料へのこだわりで嗅ぎ疲れしにくく、香水が苦手な人の体も自然に受け入れる
- 平日でも入場規制がかかるほどの集客力は、「香水を買いに行く場所」ではなく「自分を確かめに行く場所」としての設計によるもの
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